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右手で描いた暇つぶし  語り部田宮My小説を載せていきます。ただ、それだけだと寂しいので、ぼくが日々感じたことや考えたことを徒然なるままに語りますね。 

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小説:『英雄のいた時代』(2)

   ↑  2011/08/30 (火)  カテゴリー: 草稿
 ついに今日から夏休みだ。友達と遊んだり、海に泳ぎに行ったり、山にカブトムシを採りに行ったり、そういう楽しい予定がたくさん待っている。しかし、ぼくはどこかぼんやりとしていた。両親はすでに仕事で家におらず、一人でテーブルの椅子に腰掛けて、コップに入れた麦茶を揺らす。一口含むと、えぐい苦味が舌に広がった。また誰かが手を抜いて水出しにしたんだろう。
 面倒なことになったぞ、と思った。
 ついつい先生に乗せられて、「英雄」について調べることになったけど、その後よく考えてみると、これはかなり難しい宿題だということに気がついた。この田舎では、一番近い本屋や公立図書館に行くのだって車で1時間もかかる。学校の図書館には伝記とか小説しかない。これでは、マラソンのスタートを切ろうとした時に、スニーカーを履くのを忘れていたようなものだ。
 ところが、それで諦めたのかと言うと、そうでもなかった。むしろ、まるで運命に導かれるように、ぼくの中で、「英雄」について調べることは決定していた。麦茶を一気に飲み干す。コップの底で、氷のかたまりがカランと鳴った。
 親に図書館に連れて行って欲しいと頼んだ。二人はきょとんとしてから、愉快げに笑い始めた。馬鹿にしてろよ、とぼくは悪態をついた。二人はひとしきり腹をよじった後、ぼくの心境の変化というものを目ざとく察知して、ぜひとも行こうと快諾してくれた。
 次の日、市立図書館に連れて行ってもらったぼくは、図書館にたくさんの人がいるのを見て驚いた。図書館に行くのは物好きだけ、と思っていたからだ。勝手が分からずうろうろと不審者のように歩いていると、事務のお姉さんが声をかけてくれた。「英雄」について調べたいと言うと、お姉さんはぼくを「歴史コーナー」の前に案内してくれた。棚一面が、「英雄」という文字で埋め尽くされていた。
 なんだか難しそうな本ばかりだった。『英雄と怪人の歴史』、『英雄条項を撤廃した男』、『現行基本法から見る英雄条項』、どの本も、蟻の行列みたいな文字が何百頁にも渡っていた。こんなのを読んでいたら夏休みがいくつあっても足りない。まさに前途多難の気分だった。
 ところが、棚の隅に一冊だけ大型の本が――しかも、それは絵本だった――あるのに気がついた。大きな文字、カラフルな挿絵、あっという間に読み終えられそうなその薄さ! その本だけまるで別世界の住人のようだった。こういう子ども向けの本を読んでいると、よく大人は、もっと難しい本も読まなくちゃダメだよ、と偉そうに説教してくる。でもぼくは、子ども向けの本は、何を伝えたいのか分かりやすいから好きだ。
 表紙には『濡れた絵本』と書かれている。それから、その横の作者名がぼくの目を引いた。作者の名前が先生と同じだ。偶然、と思ったけど、でき過ぎな偶然だった。誘われるようにページをめくると、うす青色の雨合羽を着た子どもが、大木の下で、一人で座っている絵が描かれていた。

  ――むかしのこと。あるところに、読書を大変に愛する人々がいた。村の中心に立っていた大木の中身を掘って、そこに世界中から集めた本を収納すると、世界一巨大な図書館が完成した。人々は一日中図書館に入り浸り、帰宅してからも食事の時間と睡眠の時間以外はずっと読書をして過ごした。そんな生活だから、人々は成人を迎える頃には決まって眼鏡をかけなければならないくらいに目が悪くなってしまい、眼鏡屋が繁盛するというありさまであった。
  そんな村の人々が最も嫌うのが、雨であった。雨が降ると、大切な本が濡れて読めなくなってしまう。そのため、雨が降りそうにない天気の日でも、常に傘を持ち歩いていた。人々は、雨が降ると言われると、大の大人でもぶるぶると震えだしてしまうのだった。
  ある日から、一人の見知らぬ少年が村に住み着くようになった。彼はなぜか雨合羽を常に着ており、図書館の大木の下でいつもニコニコと人々を眺めていた。人々は彼を不気味に感じていたが、特に害もなさそうだったので、できるだけ親切にしてあげようと考えた。もともと、人々の心が善良であったことが、このことから分かる。お腹が空かせていそうなときはパンやシチューなどを分けてあげ、子ども達は彼を囲んで自分のお気に入りの物語を聞かせてあげた。そういうことを続いたせいか、いつしか彼は、図書館のマスコットのような存在として人々から受け入れられるようになった。
  ところが、意地の悪い子が、雨合羽の少年に対して石を投げつけた。幸いにも軽い怪我で済んだのだが、当然、周りの人々はその子を猛烈に叱った。その子はたまらず泣き出してしまった。すると、その様子を見ていた雨合羽の少年も、他人の涙を見て悲しくなり、急に泣き出してしまった。その瞬間、それまで青く済んでいた空がみるみるどす黒く曇り始め、ぽつぽつ雨が降ったかと思う間もなく、それはそれはひどいどしゃ降りになった。人々は蜘蛛の子を散らしたように帰って行った。そして、泣き続ける雨合羽の少年だけが、図書館の大木の下に残った。
  その雨は、一日経っても、二日経っても、ついには五日経っても降り止む気配がなかった。人々は、あの雨合羽の少年が、この大雨の原因であることに気がついた。そこで、人々は武器を持って集り、雨合羽の少年を村から追い出そうとした。そのとき、子ども達はそんなことをしないよう大人達にお願いした。毎日雨合羽の少年に物語を聞かせていた子ども達にとっては、彼は大切な親友の一人になっていた。けれども、これ以上雨が続けば、村が水没しかねない状況であった。そこで、人々は、もしこの先三日間経っても雨が止まないようであれば、雨合羽の少年を追い出すと決め、子ども達もそれで納得した。
  ある子は、雨合羽の少年にお菓子をあげようとしたが、あげた途端に溶けてしまった。別の子は、彼にお気に入りの本をあげようとしたが、これもあげた途端にぐちゃぐちゃになって読めなくなってしまった。また別の子は、彼に慰めの言葉をかけたが、あまり効果はないようだった。他にもいろんな子がいろんなことをしたが、雨合羽の少年が泣き止むことはなかった。そうして、三日が経ち、ほとんどの子ども達はあきらめてしまった。
  そして決定から四日目の朝、人々は武器を持って集った。傘をさしながら雨合羽の少年に近づく様子を後ろから見ていた子ども達は、涙をこらえる事ができずに、ぽろぽろと涙をこぼしながら大人達の後ろを歩いた。大人達の軍団は、雨合羽の少年のすぐそこにまで迫っていた。
  ところが、雨の隙間から、大木の下に二人子どもがいるのに大人達は気がついた。雨合羽の少年の隣に、一人の男の子が座っていた。その男の子は、何度も読み返したためにぼろぼろになった本を取り出すと、その本が雨に濡れるのも気にせずに、雨合羽の少年によく聞こえるようその耳元で物語を語り始めた。
  初めは、変化はないように思われた。しかし、人々は、ふと雨が弱まり始めていることに気がついた。男の子の物語に、雨合羽の少年が耳を傾け始めていた。雨はどんどん弱まる。男の子は、ぐちゃぐちゃになって読めなくなった本を、記憶をたどって語っていく。気がつくと、雨合羽の少年が男の子に寄り添うようにして、物語を聞いていた。そして、またもとのようにニコニコと笑った。同時に、雨は完全に止んでいたのだった。
  久々に見た青天に、人々は歓喜して武器を投げ捨てた。子ども達も、今度は喜びの涙を流した。人々は、どうして雨合羽の少年が機嫌を直したのか分からなかった。そんな人々に、男の子は言った。「ぼくね、知ってるんだ。彼が、ぼくたちが本を読んでいるのを見たり、ぼくたちが好きな本の話を聞くのが、すごく好きだってこと。」
  それからも、何度か大雨が降ることがあったが、どれも次の日には止んだ。それは、人々が,雨合羽の少年のことを理解できるようになったからかもしれない。――

 (続)

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