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右手で描いた暇つぶし  語り部田宮My小説を載せていきます。ただ、それだけだと寂しいので、ぼくが日々感じたことや考えたことを徒然なるままに語りますね。 

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評論:入江曜子『思想は裁けるか』

   ↑  2011/12/11 (日)  カテゴリー: 感想等 ※時々ネタバレ注意報
 どうも田宮です。
 久しぶりに本の感想を書きます。最近どうも真面目な本ばかり読み過ぎて性格が大学1年のころと変わって来てんじゃねえかと思い始めているのですが、まあ悪いことではないですよね、たぶん笑。

 『思想は裁けるか――弁護士・海野普吉伝』入江曜子/筑摩書房
 「誰のために、何に対して戦うのか。人間として守らなければならない自由とは、人権とは何か、それを護るためにどう生きるか」弁護士として渾身の力をこめてそう問いつづけた海野普吉(明治18年~昭和43年)。昭和の時代に、冤罪を憎み、言論弾圧と戦った、ひとりの弁護士の活動の軌跡が今を生きる私たちに問いかけるものとは。(筑摩書房


 これは文字通り、弁護士であった海野普吉の人生を描いた本です。ちなみにこれ「うんのしんきち」と読むようで、本当は「晋吉」とすべきところを、親が誤って「普吉」としてしまったそうです。
 ところで、私はこの海野普吉という名を見た瞬間、どっかで見た名前だなあと思っていたのですが、帯に書いてあった「砂川事件」を見てぴーん!と思い出しました。確かに「砂川事件」の判決を読んだとき、この人の名前が弁護人のところにありました。しかしながら、本書を読むと、この人がものすごい影響力をもった法律家であったことが分かるのですが、それに対する現代の知名度はとてつもなく低い。法学部でも、「砂川事件」で偶然見つける可能性があるくらいで、それ以外だと知る機会は皆無だと思います。その意味でも、弁護士を目指される方は、ぜひ本書を読んでいただきたい。

 海野普吉が関わった事件として挙げられているものは、河合栄治郎事件、尾崎行雄不敬事件、津田左右吉事件、横浜事件、松川事件、砂川事件、昭電疑獄事件などなど……と、法学部生からすると目の眩むような錚々たる事件ばかりです。もうこの時点でこいつはヤバい御方やでえという感がありありです。しかもほとんどの事件で勝訴していますし。完全に敗訴しているのは砂川事件くらいですかね。

 いちおう彼の主張の特筆すべき点をまとめると、三つあるようです。
 第一に、河合栄治郎事件など治安維持法に関連する一連の事件における、思想は裁かれるべきでないという主張。戦中の治安維持法は世界に誇るべき日本の悪法ですが、どうやら海野普吉はそこで公訴された思想犯らの弁護を一身に引受けた方のようです。ポツダム宣言受諾後には、戦中に行われた思想犯に対する拷問を厳しく追及したりしています。
 第二に、砂川事件における、憲法9条に関する主張。すなわち、「合衆国軍隊がわが国に駐留するのは、勿論アメリカ合衆国の一方的な意思決定に基くものではなく、前述のようにわが国政府の要請と、合衆国政府の承諾という意思の合致があつたからであつて、従つて合衆国軍隊の駐留は一面わが国政府の行為によるものということを妨げない。蓋し合衆国軍隊の駐留は、わが国の要請とそれに対する施設、区域の提供、費用の分担その他の協力があつて始めて可能となるものであるからである。かようなことを実質的に考察するとき、わが国が外部からの武力攻撃に対する自衛に使用する目的で合衆国軍隊の駐留を許容していることは、指揮権の有無、合衆国軍隊の出動義務の有無に拘らず、日本国憲法第9条第2項前段によつて禁止されている陸海空軍その他の戦力の保持に該当するものといわざるを得ず、結局わが国内に駐留する合衆国軍隊は憲法上その存在を許すべからざるものといわざるを得ない」(砂川事件第1審伊達判決より引用、これは弁護士海野普吉の意見をほぼ採用したもの)。海野普吉がこのような思想に至った理由は、彼が青年期に読んだ、『肉弾』という本の影響だと書かれています。
 もっとも、この判決は最高裁によって覆されています。最高裁は、このような問題は極めて高度に政治的なものであるから、一見して明白に違憲無効であれば格別、そうでなければ、裁判所の審査はこのような問題には及ぶものではない(いわゆる統治行為論)という考え方を採用したのです。
 第三に、松川事件における、自白のみで有罪にすべきではないという主張です。松川事件とは、知る人ぞ知る、当時の社会に一大ムーブメントを巻き起した冤罪事件です。これは、国鉄の列車が突然に脱線転覆し、その後に取調べを受けた元国鉄線路工の少年の自白のみに基づいて、合計20名が逮捕公訴された事件です。結果的には、検察側が証拠を意図的に隠していたのがバレて、最高裁からの差戻し審で全員無罪が確定したのですが、捜査機関の悪名を世に知らしめることになったのです。

 以上のように内容はとても充実しているのでおすすめです。
 ただ、著者の書き方という面では、少し不満が残りました。
 まず、この著者は文章が下手です(言い切った!)。伝記という性格上、つらつらと脈絡なく話がつなげられるのは仕方ないかもしれませんが、時折無駄にひらがなを使おうとするのは致命的に読み辛いです。普通に漢字を使え。
 次に、海野普吉の学生時代と、弁護士時代とのギャップが激しすぎるように感じました。つまり、彼の学生時代の記述を見ると、病気がちであまり勉学に励むことができなかったようなのですが、それが弁護士になった途端、こいつ天才じゃね?というレベルで活躍し始めるのは、どうにも違和感があります。もしほんとに彼が天才だっただけで、書きようがなかったのであればごめんなさい。
 あと、P212の審査権の話は間違いです。最高裁が具体的な事件とは無関係に憲法問題を判断しないのは、裁判所法7条のせいではなくて、裁判所法3条(「一切の法律上の争訟」)の問題です。著者は文学部卒のようなので、おそらく法的知識は少し甘い所があるんじゃないかと推測します(でもここ以外は全て正しかったと思います)。

 と最後にちょいと不満も述べましたが、海野普吉について知りたければ、今の時点では本書以上の本はないと思います。ということで、ちょっと治安維持法の事件に興味あるんだよなとか、砂川事件の伊達判決が好きなんだよとかいう人は、ぜひ読んでみてください。


思想は裁けるか 弁護士・海野普吉伝 (筑摩選書 17)思想は裁けるか 弁護士・海野普吉伝 (筑摩選書 17)
(2011/05/18)
入江 曜子

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 ではまた。

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